学校の塾化

学校では長期的な視野での教育、塾では短期的な視野での教育をしていますが、実際には明確な線引きがあるわけではありません。
考えてみると、学校では長期的な視点での教育に軸足を置きながら、やはり目先の受験対策も行っているし、塾では短期的な視点での教育に軸足を置きながら、生徒たちの将来のことを案じています。
そして、むしろそれが逆転してしまう現象もあるようです。

第二次ベビーブーム世代による大学受験の最難関化が起こった1992年、高校卒業生の3人に1人は浪人を余儀なくされました。
しかし、現在は大学全入時代です。高校は、もっと本質的な授業に戻っているはずと思うところですが、実際にはそうはなっていません。第二次ベビーブーム世代の受験以降、高校でも大学入試のための勉強を教えるということが、ある意味常識となってしまい、もとには戻らなくなってしまったのです。
一方で、現在の世の中は、ベビーブームどころか少子化が進む一方です。
そのせいで塾や予備校の経営は 厳しい局面にあるのですが、同様に私学も厳しい経営を迫られています。
塾は、生徒数が減れば教室を縮小することができますが、学校はそうはいきません。
私学の生徒集め競争は、年々激しきを増していて、そんな中、生き残りをかけた一部の私学が、進学校化を前面に打ち出し、生徒を集めようとしています。流行のうたい文句は「面倒見のよさ」そして「塾要らず」。
こうした、塾が果たしてきた機能を学校の中に内包しようとする動きがあるのです。

これまでは塾が、入試に合格するという短期的な目標に対する効果的なソリューションを提供してくれることで、学校はより長期的で本質的な教育に力を注ぐことができていました。
それなのに、学校が塾的な教育までをも担うようになれば、本来学校が担っていた長期的視野での教育を誰が担うというのでしょうか?
こうした「塾要らず」の学校にも落とし穴があるように思えます。
学校が塾化してしまったら、教育の多様性は保たれなくなるのではないかと思うのです。